2022年11月16日水曜日

拾い読みアフガニスタン  (第13回)

20221116

前田 朗

 

ジョン・ホプキンス大学の人道保健・人権センターが報告書『アフガニスタンにおける出産と子どもの保健の危機』(2022)を公表した。執筆者はラビア・ジャララザイ、ナンシー・グラス、レオナルド・ルーベンスタインである。

The Maternal and Child Health Crisis in Afghanistan, 2022. Johns Hopkins Centers for Public Health and Human Rights and for Humanitarian Health.

<目次>

要約

勧告

序文

医療と保健を受けられる可能性と質の変化に関する研究

分析とこれからの道

参照註

以下、ごく簡潔に紹介する。

要約

 この20年間、アメリカはアフガニスタンの人々の医療システムのために数百万ドルの支援をしてきた。アフガンの人々は長期にわたって、出生時の死亡や子どもの死亡の危機にある。国際NGOや各国NGOは公衆保健省に協力し、数千人の保健職員に研修をし、衛生管理を施してきた。戦争、政府の腐敗、その他の巨大な困難にもかかわらず、顕著な成果があった。子ども・幼児死亡率は半減した。だが、アフガンは極貧のため2021年も世界最悪の数値を示している。


20218月のターリバーン政権獲得は経済的健康的破局と政治的危機、人権の危機をもたらした。援助国は財政支援を打ち切り、ターリバーン政権に経済制裁を科した。アフガン経済へのダメージは深刻で、70%が失業、数百万の人々が貧困に陥り、飢餓に喘いでいる。人道的食糧援助によりかろうじて大量飢餓死を防いでいる。


アメリカ、世界銀行、国連、赤十字国際委員会が医療緊急援助を行ったが、経済制裁のため保健職員への給与支払いもままならない。医薬品も入手困難である。


ターリバーン政権の施策は危機を悪化させている。初期には女性の権利を尊重するとしていたが、少女が中学校に通うことを禁止し、女性の就業を制限し、厳しい衣服規則を出し、女性の屋外の行動や旅行に対して暴力と脅迫を用いている。


それゆえ、2021年のアフガンにおける労働条件、保健職員の安全、子どもの保健、出産死、子ども死の変化について研究した。医療保健の専門家育成の教育への財政支援の欠如にも関心があり、センターは研究をつづけた。


2~4月に、89人の職員にインタヴューを行った。公的施設及び私的施設、都市及び地方の医療センターを含む。調査は202224月、ZOOMを用いた。


調査の結果、4つのことが判明した。


1に、出産と子どもの保健提供条件の深刻な劣化である。保健職員は厳しい労働条件化にあり、43.8%が悪化している、酷く悪化したと回答した。半数以上が20218月以後、定期的な給与支払いを受けていない。46.6%が患者に必要な医薬品が決定的に減っていると回答した。NGO運営の5つのセンターからも同様の回答である。28.9%が医療の質を維持できない状況を回答した。


 こうした困難にもかかわらず維持運営を続けようとしているが、保健職員は日々、ターリバーン政権からハラスメントや暴力の脅迫を受けている。女性職員の81%が安全に問題があると報告している。男性同伴者なしで旅行先でターリバーンに殴られる経験をしている。タクシーに乗ることも難しい。NGO職員の80%が20218月以来モチベーションの低下を感じている。


2に、20218月以来、医療の質の低下が著しい。40.4%がコミュニティにおける出産や子どもの保健の条件が劣化したと回答している。24%が、条件悪化ゆえに、母子への医療提供ができなくなっている。国家財政の危機、保健職員の能力低下、貧困な労働条件、財源不足により、女性もその家族も業務継続ができない。


3に、保健職員によると、出産死率が高まっている。36.6%が幼児死亡を報告している。31.4%が20218月以後に出産死を経験している。5つの地域では、64.3%が最近1カ月に母子の死亡を経験している。


4に、保健職員は将来についての関心を表明している。出産死や幼児死につながるような要因を報告している。財政支援の喪失、経済危機、少女の中学校禁止、保健施設の閉鎖、看護教育の閉鎖である。

 

 

 

 

 

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