2022年12月11日日曜日

拾い読みアフガニスタン(第15回)

 20221211日 

前田 朗

 

「拾い読みアフガニスタン13」の続き。

ジョン・ホプキンス大学の人道保健・人権センター報告書『アフガニスタンにおける出産と子どもの保健の危機』(2022)の紹介。

The Maternal and Child Health Crisis in Afghanistan, 2022. Johns Hopkins Centers for Public Health and Human Rights and for Humanitarian Health.

冒頭に5項目の勧告がまとめられている。

1 アメリカその他の支援国、国連機関は、WHOUNICEFが行っている過程を加速させる  べきであり、アフガンにおける国連支援団の保護の下での長期的な観点での保健の発展、保健財政計画を、新しい援助計画の一部とするべきである。この計画はアフガニスタンの保健制度の維持にとっての挑戦に即して、すみやかに開発し履行されねばならない。


2 財政と保健計画には、アフガニスタンにおける保健専門機関及び規制機関のための協力と財政支援が含まれるべきである。


3 3つの住民保健調査をアフガン全土34州における保険状況をよりよく理解するために速やかに実施するべきである。調査結果は構造的な保健計画に役立てるべきである。


4 アメリカ政府はターリバーンと交渉を続け、中央銀行機能を再建し、経済封鎖を解除するべきである。バイデン政権は20229月にスイスに「アフガン基金」を創設する措置を講じたが、中央銀行機能が回復していない。


5 アメリカとその同盟国は、ターリバーン政権が女性の権利(移動の自由、教育、雇用、保健へのアクセス)を侵害するのを止めるために圧力を加えて外交交渉を続けるべきである。

報告書は2つの調査に基づいている。

1に、アフガン34州の公的保健機関及び私的保健機関に勤務する保健職員の体験である。

2に、5つの地域におけるNGOが支援する施設で働く保健職員の体験である。


調査は、労働条件、安全性、出産と子どもの保健、その将来を含む。調査はインターネットを通じて実施された。全調査対象者につきインフォームド・コンセント。安全性の理由から調査対象者の個人情報は含まれない。調査期間は202224月である。131人の保健職員が調査に応じた。第1の調査で89人、第2の調査で42人。うち80%が女性である。第1の調査の3分の2が地方の公的保健施設である。約60%が田舎の施設である。NGO支援施設の半分は都会である。

調査の結果明らかになった事実

1 適切な医療を提供する条件の劣化

2 医療の提供可能性と質の深刻な衰退

3 出産と幼児の死亡の増加

4 アフガニスタン保健制度の将来についての関心

1 適切な医療を提供する条件の劣化

まず継続的な賃金支払いがない。

西欧諸国による支援が始まったが、定期的に賃金支払いを受けている労働者はいない。89.8%が20218月以後に賃金支払いを受けたとはいえ、多数の者が賃金が50%以下になった。

ある保健労働者は次のように述べた。

「彼女にはもう期待できることはないわ。家族のため、子どものための食料や何やらを買うために働いているのに、想像できるかしら、賃金が支払われないなんて。これが現実だから、本当に困ってるの。」

もう一人によると、

「どこの病院も施設でも、みんな賃金をもらってないの。もう46カ月よ。だから、家族にも負担ばかり、施設の職員にも負担ばかり。」

次に備品も医薬品もない。

ある保健職員は語る。

「彼女は鉄分が足りないからより良い栄養補給が必要なんだけど、説得しようとしても聞かないの。だって、薬が必要なんだから薬を投与しなくちゃいけないけど、病院には薬がないのよ。だから、その次から病院には来なくなるの。こんな調子だから仕事に差し支えるのよ。」

さらにターリバーンによる制限やハラスメントがある。

女性保健職員は、ほぼ毎日のようにハラスメント、暴力、脅迫に晒されている。ターリバーンの役人に出会うと暴力被害を受ける。

「ターリバーンの責任者は、なんでお前はここに来たのかって言いうのよ。お前のマーラム(男性エスコート)はどこにいる。どこにもいないのか。夫はどこだ。マーラムなしで保健省に来るな。こう言って、職員のやる気をなくさせるの。ほんとに精神的にダメージよ。毎日、こんな調子だから。」

73.3%が職場への通勤も安全ではないと回答した。81%はターリバーンに職務質問を受け、ハラスメントを受けている。田舎の施設の女性職員の57.7%が安全でなくなったと回答している。

「私の施設には40人の保健職員がいます。みんな病院に来ては、ターリバーンに直面するのです。ターリバーンはお前たちは歓迎されていないと言います。マーラムなしで働きに来ることはできないって。私たちは保健提供者だから病院に行かなくてはならないと説明します。ターリバーンは暴力を使わなくても、叫ぶんです。私たちは祈ることしかできません。」

職員不足のため、ストレスがたまる。

ある職員によると、

「仕事を辞めた職員もいます。外国に行った人もいるし、保健職員が一人もいない病院もあるくらい。専門職員は一人もいません。」

78.6%の職員がモチベーションの低下を嘆いている。

「仕事は午後4時から午前8時までです。病院で患者を診るのに、夜勤をしなくてはならず、とても長時間です。朝には本当に疲れ果てて、もうエネルギーが残っていません。ベストを尽くそうとしますが、ええ、ベストを尽くそうとしているんですが。」

 

アフガン訪問 報告会のお知らせ

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