2022年11月26日土曜日

拾い読みアフガニスタン (第14回)

20221126

前田 朗


20221125日、国連人権理事会の特別報告者など人権専門家がアフガニスタンの女性に対するターリバーンの人道に対する罪(ジェンダー迫害)に警鐘を鳴らした。以下、簡潔に紹介する。

リチャード・ベネット:アフガニスタンにおける人権状況特別報告者

ドロシー・エストラーダ・タンク:女性と少女に対する差別作業部会長

イヴァナ・ラダチッチ

エリザベス・ブロデリック

メスケレム・ゲセット・テチャネ

メリッサ・ウプレチ(以上、同作業部会メンバー)

アレクサンドラ・シャンザキ:文化的権利特別報告者

ファリダ・シャヒード:教育の権利特別報告者

クレマン・ニャレトッシ・ブール:平穏な集会の権利特別報告者

メアリ・ローラー:人権擁護者の状況特別報告者

特別報告者たちは、「過去数カ月、アフガニスタンにおける女性と少女の基本権と自由に対する侵害は、世界でもっとも深刻で許容できないものであったが、いっそう度を増している」という。特別報告者らは、ジェンダー迫害は人道に対する罪に当たる、国際法の下で訴追されうるものであるという。


監獄に等しい

少女は中等学校から追い出され、女性は公園、ジム、その他の公共空間に入ることを止められ、ある地域では大学からも排除されている。女性の講演へのアクセス禁止は、子どものレジャーの機会も否定し、遊びやレクリエーションの権利も奪っている。女性が自宅に留め置かれることは、監獄に等しい。DVや精神衛生への困難の度合いを増している。


ジェンダーを手段とする

同時に、ターリバーンの役人はカラフルな色彩の衣装を着た女性や、顔を覆っていない女性と一緒にいる男性を酷く殴りつけている。ターリバーンは、女性が犯罪を犯したとのかどで、男性親族を処罰している。一方のジェンダーを手段として、男性に、女性の行動や移動を統制させようとしている。ターリバーンの指令に抵抗する女性を処罰することを男性に強制しようとしている。女性に対する暴力を常態化するものである。


擁護者を擁護する

女性人権擁護者(人権活動家)が、女性に対する制限が増えることに平穏に抵抗しているが、そのため標的とされ、殴られ、逮捕されている。113日、ある記者会見が妨害され、参加者が逮捕された。ザリファ・ヤコービと4人の男性で、まだ身柄拘束されている。

逮捕された人権擁護者の健康状態に懸念を表明し、基本権を行使するものを逮捕することは違法であり、恣意的な拘禁であるという。


ターリバーンへの呼びかけ

特別報告者らは、ターリバーンに国際人権上の義務を守り、人権基準を完全に履行するよう呼びかける。教育、雇用、政治参加、文化生活の権利を保障するよう呼びかける。

特別報告者らはヤコービと男性たちを即座に釈放するよう強調し、拘禁の理由を説明し、家族や弁護士との面会を認めるよう強調する。

妨害や攻撃なしに集会の権利を尊重すること、少女のための中等教育の開始、大学教育へのアクセスの確保、公共の場に参加する際のすべての制限の除去を求める。


国際的行動が必要だ

特別報告者らは、国際社会に、ターリバーンと協議して、女性への制限を解除し、女性の権利を尊重・保護するよう要求するよう呼びかけた。世界の指導者は、ジェンダー迫害について、適切な国際管轄権及び地域管轄権のもとで、責任者を捜査し、訴追する措置を講じるべきであり、アフガンの人権擁護者を支援し、女性のための安全なプラットフォームを用意するべきである。

以上が紹介である。

以下、補足的説明。

「ジェンダー迫害gender persecution」という言葉が用いられている。迫害は、ニュルンベルク裁判憲章や東京裁判憲章において人道に対する罪の一つとされていた。旧ユーゴ国際法廷規程、ルワンダ国際刑事法廷規程、そして1998年の国際刑事裁判所規程でも、「人道に対する罪としての迫害」が国際犯罪とされている。ユダヤ人迫害に代表されるように、通常は人種や民族を理由とする迫害が想定されるが、声明ではジェンダー迫害も人道に対する罪だとしている。

なお、「人道に対する罪」は一つの犯罪を指す言葉ではない。「人道に対する罪としての殺人」「人道に対する罪としてのせん滅」「人道に対する罪としての奴隷化」「人道に対する罪としての拷問」「人道に対する罪としてのアパルトヘイト」「人道に対する罪としての強姦」「人道に対する罪としての迫害」などの犯罪を指す総称である。

「国際管轄権」という言葉が用いられている。国際犯罪を裁くために設定されている国際管轄権とは、現在、ハーグにある国際刑事裁判所のことを意味する。アフガニスタンは2003年に国際刑事裁判所規程に加入しているので、国際刑事裁判所の検事は実際にアフガニスタンにおける国際犯罪について捜査を行っている。

他方、「地域管轄権」は、旧ユーゴ法廷、ルワンダ法廷、カンボジア法廷、東ティモール法廷、シエラレオネ法廷などが知られるが、アフガンに関する地域管轄権は存在しない。

 

2022年11月16日水曜日

拾い読みアフガニスタン  (第13回)

20221116

前田 朗

 

ジョン・ホプキンス大学の人道保健・人権センターが報告書『アフガニスタンにおける出産と子どもの保健の危機』(2022)を公表した。執筆者はラビア・ジャララザイ、ナンシー・グラス、レオナルド・ルーベンスタインである。

The Maternal and Child Health Crisis in Afghanistan, 2022. Johns Hopkins Centers for Public Health and Human Rights and for Humanitarian Health.

<目次>

要約

勧告

序文

医療と保健を受けられる可能性と質の変化に関する研究

分析とこれからの道

参照註

以下、ごく簡潔に紹介する。

要約

 この20年間、アメリカはアフガニスタンの人々の医療システムのために数百万ドルの支援をしてきた。アフガンの人々は長期にわたって、出生時の死亡や子どもの死亡の危機にある。国際NGOや各国NGOは公衆保健省に協力し、数千人の保健職員に研修をし、衛生管理を施してきた。戦争、政府の腐敗、その他の巨大な困難にもかかわらず、顕著な成果があった。子ども・幼児死亡率は半減した。だが、アフガンは極貧のため2021年も世界最悪の数値を示している。


20218月のターリバーン政権獲得は経済的健康的破局と政治的危機、人権の危機をもたらした。援助国は財政支援を打ち切り、ターリバーン政権に経済制裁を科した。アフガン経済へのダメージは深刻で、70%が失業、数百万の人々が貧困に陥り、飢餓に喘いでいる。人道的食糧援助によりかろうじて大量飢餓死を防いでいる。


アメリカ、世界銀行、国連、赤十字国際委員会が医療緊急援助を行ったが、経済制裁のため保健職員への給与支払いもままならない。医薬品も入手困難である。


ターリバーン政権の施策は危機を悪化させている。初期には女性の権利を尊重するとしていたが、少女が中学校に通うことを禁止し、女性の就業を制限し、厳しい衣服規則を出し、女性の屋外の行動や旅行に対して暴力と脅迫を用いている。


それゆえ、2021年のアフガンにおける労働条件、保健職員の安全、子どもの保健、出産死、子ども死の変化について研究した。医療保健の専門家育成の教育への財政支援の欠如にも関心があり、センターは研究をつづけた。


2~4月に、89人の職員にインタヴューを行った。公的施設及び私的施設、都市及び地方の医療センターを含む。調査は202224月、ZOOMを用いた。


調査の結果、4つのことが判明した。


1に、出産と子どもの保健提供条件の深刻な劣化である。保健職員は厳しい労働条件化にあり、43.8%が悪化している、酷く悪化したと回答した。半数以上が20218月以後、定期的な給与支払いを受けていない。46.6%が患者に必要な医薬品が決定的に減っていると回答した。NGO運営の5つのセンターからも同様の回答である。28.9%が医療の質を維持できない状況を回答した。


 こうした困難にもかかわらず維持運営を続けようとしているが、保健職員は日々、ターリバーン政権からハラスメントや暴力の脅迫を受けている。女性職員の81%が安全に問題があると報告している。男性同伴者なしで旅行先でターリバーンに殴られる経験をしている。タクシーに乗ることも難しい。NGO職員の80%が20218月以来モチベーションの低下を感じている。


2に、20218月以来、医療の質の低下が著しい。40.4%がコミュニティにおける出産や子どもの保健の条件が劣化したと回答している。24%が、条件悪化ゆえに、母子への医療提供ができなくなっている。国家財政の危機、保健職員の能力低下、貧困な労働条件、財源不足により、女性もその家族も業務継続ができない。


3に、保健職員によると、出産死率が高まっている。36.6%が幼児死亡を報告している。31.4%が20218月以後に出産死を経験している。5つの地域では、64.3%が最近1カ月に母子の死亡を経験している。


4に、保健職員は将来についての関心を表明している。出産死や幼児死につながるような要因を報告している。財政支援の喪失、経済危機、少女の中学校禁止、保健施設の閉鎖、看護教育の閉鎖である。

 

 

 

 

 

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