2023年4月16日日曜日

拾い読みアフガニスタン (第17回)

 「ジェンダー・アパルトヘイト」

2023416

 前田 朗

 

偶然入手した文献だが、「ジェンダー・アパルトヘイト」という言葉を初めてみたので、ざっと読んでみた。

Afghanistan Under The Taliban : A State Of “Gender Apartheid”? By Naheed Farid and Rangita de Silva de Alwis, Princeton Spia Afghanistan Policy Lab. 2023.

Naheed Faridは、ターリバーン政権以前のアフガンの議員、アフガン議会・人権・市民社会・女性問題委員会議長。現在、プリンストン大学アフガン政策研究センターの専門研究員。

Rangita de Silva de Alwisは、国連女性差別撤廃委員会委員、ペンシルヴァニア大学ロースクール研究者、ハーヴァード・ケネディスクール客員研究員。

目次

要約

背景:ターリバーンのアフガン支配

教育への影響

終わらない任務:破棄された約束

国際社会への勧告

資料

資料1「20218月以後のターリバーンによる女性の権利制限政策」

資料2「アフガニスタンにおける教員へのインタヴュー」

全体で45頁だが、本文は7頁目までである。資料1が832頁目まで、資料2が3345頁目まで。以下、本文をご簡潔に紹介する。

要約

20218月のアフガニスタンのターリバーン復権以来、アフガン女性・少女は権利への重大な後退を余儀なくされ、教育の否定から移動の制限、経済への参加の欠如に至る受難を被っている。アフガニスタンは現在、ジェンダー・アパルトヘイト状態である。本報告書で、女性・少女についてターリバーンが出した指令の射程と影響を分析する。これらの指令がいかに国際人権規範や、旧政権が行った保障に違反するかを論じる。本文の分析に加えて、アフガニスタンの女性教員10人にインタビューを行ったが、彼女たちの生活は学校閉鎖やその他の差別政策により激変した。最後に、国際社会はアフガニスタンの女性を支援するため、より大きな活動をしなければならず、特に国際人権基準に合致したジェンダー平等教育を促進するようにしなければならない。コスト問題及びターリバーンがその行動を変える兆候がないので、アフガニスタンのジェンダーに基づく人権侵害状況を市民的政治的経済的社会的文化的文脈を重ね合わせて対処する緊急性があることを論じる。

ジェンダー・アパルトヘイトについて、次のような註が付されている。

ここでターリバーンの政策について用いているジェンダー・アパルトヘイトとは、今日の国際人権法において公式に定義された用語ではない。この用語はその人種的同価値性ゆえに借用した。この用語は、ターリバーン支配下のアフガニスタンで起きている組織的なジェンダー隔離、権利侵害、教育の否定を適切に記述していると考える。

背景:ターリバーンのアフガン支配

2021815日、ターリバーンがカブールを占拠した。当日、ターリバーンはすべての少女の中学と高校の閉鎖を命令した。公式文書は1か月後。97日、ターリバーンは政府要員を男性のみにするとした。

922日、政府はパシュトゥン以外の民族からのメンバーも加えたが、女性はいなかった。女性省を廃止し、その建物を美徳推進省にするとした。ターリバーンは憲法を停止し、議会を解散した。

20218月以来、女性・少女に関連する36のシャリアによる命令を出した(資料1参照)。その多くは、女性に許される行動、ドレスコード、旅行の際の男性同伴者の義務などである。高齢女性と少女以外の女性は顔を隠さなければならない。

「ガイドライン」や「勧告」とされているが、その強制度合いは地方によってさまざまである。違反した場合に、その女性の男性家族を処罰するとされている。

ターリバーンによる権利制限は、女性の生活に重大な影響を与えた。20223月までに、66%の女性が仕事を失った。子ども結婚とジェンダー暴力のリスクが高まった。

教育への影響

女性にとっては、社会的制限に加えて、もっとも悪影響を被ったのが教育である。UNICEFによると、学校に通っていない子どもの60%が少女である。2022年春に少女も学校に戻れることになったが、実際には戻れていない。223月、ターリバーンは少女が小学校に戻れると発表したが、中学と高校からは閉め出されたままである。2212月、大学から女性が追い出された。

10人の女性教員にインタヴューを行った。21の質問である(資料2参照)。名前と地名は匿名にした。

インタヴュー結果は、恐怖と不安定を明らかにした。女性は権利と市民的自由を喪失した。経済的困難を余儀なくされ、仕事を失った。少女は学校に行けず、代替手段もない。子ども結婚を強いられることが増加した。マジョリティ女性よりもマイノリティに属する女性の方がひどい困難に陥っている。

「私の州には歌手、教授、アスリート、政治家を目ざす少女がいましたが、今はみんないなくなりました。才能のある少女は逮捕され、国から逃げ出すか、今は隠れて暮らしています。家族は娘を結婚させようとしています。というのも、ターリバーンと結婚させられることを恐れているからです。ほとんどの少女が結婚を強いられています。こんなことになるとは想像もしなかった悪夢です。」(匿名の女性教員)

 

 

 

RAWA来日! RAWAと連帯する会結成20周年記念スピーキングツアー 『ターリバーンの再支配から早3年 アフガニスタンのいま 女性と子どもたち、そして私たち』

■チラシ表面 ■チラシ裏面 ↑ダウンロードできます   アフガニスタンでは、2021年ターリバーンの復権以後強権的な支配が続いています。 とりわけ女性の自由の制限が深刻で、教育や就労の機会が制限されています。国連をはじめ多くの人権団体がこれを批判し是正を求めています。しかし改まる...