2022年9月29日木曜日

拾い読みアフガニスタン(第11回)

2022929

前田朗

 

96日、国連人権理事会第51会期(本年912日~107日)のために、リチャード・ベネット「アフガニスタンの人権状況に関する特別報告者」の報告書(A/HRC/51/6. 6 September 2022)が提出・受理され、公表された。

「Ⅴ 人権状況の観察」の「A 女性と少女の人権状況」と「C 紛争関連人権侵害」を簡潔に紹介する。

ⅤのA 女性と少女の人権状況

1 教育・・・・・(前回)

2 子ども結婚・・(以下今回)

3 女性に対する暴力

4 勤労と生活の権利

2 子ども結婚

 子どもの権利団体によると、経済的人道危機の悪化と、少女の教育機会の欠如に伴って、子ども結婚が急増している。若い女性に対して結婚するようにとの圧力が強まっているという。家族の安全のために結婚するようにとターリバーンから圧力が加わっているという。子ども結婚を禁止する法規範がない。202112月に強制結婚を禁止する命令が出されたが、結婚の最低年齢を提示していない。「シーアの人の地位法」では15歳未満の少女の結婚を認めている。

3 女性に対する暴力

 DVをはじめとする女性に対する暴力が増加しており、被害者が保護・支援・責任追及を求めるためのメカニズムが崩壊している。マーラム政策がジェンダー暴力の生存者が援助を求めるのを困難にしている。被害者にスティグマ化し、刑罰を科すため、被害報告がなされない。障害を持った女性が援助を求めるのは一層困難となっている。

 ある女性によると、「いつだって暴力があったけど、前は訴えに行く場所があった。国内人権裁判所や特別法廷、シェルターもあった。いまは全部なくなってしまった。」

特別報告者が取材した女性人権活動家は、平穏なデモをしただけでハラスメント、拘禁、虐待の被害を受けた。暴力、強制失踪、拷問の被害もある。釈放されるためには、ビデオ自白を取られ、「もう活動しない」と署名させられる。そのため活動を停止し、国外に逃れる女性がいる。女性の自殺と殺害が増えているのに警告を発する。救済のための緊急措置が必要である。

4 勤労と生活の権利

 生活の糧を得るために働く権利は、差別なく国家によって保障されるべきである。アフガン女性は自己維持の能力に著しい悪影響を受け、基礎的権利を享受できない。2021年初期、17,369人の女性経営者がいて、女性の就業機会があり、インフォーマル経済にはほかにもっと多くの未登録の女性経営者がいた。20223月、女性の61%が仕事を失った。損失はGDP35%に達する。インフォーマル・セクターでの女性の労働も、移動制限のために失われた。働き続ける女性にはハラスメントと虐待が待ち受けている。

 女性は司法制度から事実上排除されている。以前は1951人の裁判官のうち265人が女性で、女性検察官のいる州は全34のうち32州であった。弁護士の5人に1人は女性だった。女性公務員はシャリーア法の下で、自宅待機を命じられた。2022719日、事実上の財務大臣は、女性公務員にその地位を家族男性と交代するように求めた。特別報告者が取材した女性公務員は、自宅待機を命じられたという。アテンダンス・シートに署名すれば賃金が払われると言われた女性がいる。

「Ⅴ 人権状況の観察」の「C 紛争関連人権侵害」を簡潔に紹介する。

事実上の軍隊と自称国民抵抗戦線(NRF)の間の紛争が続いており、パンジシール州やバグラン州アンダラブ地域では国際人道・人権法の重大侵害が続いている。民間人が恣意的に逮捕され、裁判抜きで処刑され、拷問され、集団処罰がなされている。拷問によって死亡し、略式処刑され、拘禁されている。事実上の軍隊は、住宅地域で家屋を臨検し、住民に暴力をふるっている。カーブルや北部の都市では、NRFに関与した疑いで処罰されている。事実上の軍隊は、夜間の移動を禁止し、農民が自分の土地に行くことも困難にしている。

 サレプル州バルカーブ地域の民間人への暴力が報告されている。事実上の軍隊と、ハザラ・ターリバーン指揮官マウラウィ・メーディに忠誠を誓う武装集団の間の対立が原因である。12人が略式処刑されたという情報がある。ターリバーンによる殺害が民族偏見によるとの情報がある。捜査が必要である。

 コラサン州のイスラム国(ISIL-KP)の活動が激化し、シーア派の宗教コミュニティがターゲットとなっている。バルクとクンドズでは4月に100人以上の民間人が負傷した。620日、ナンガルハル州では自動車爆弾によりガニ・ケル地方病院が攻撃され、32人の民間人が死亡し、32人が負傷した。

2022年9月9日金曜日

拾い読みアフガニスタン(第10回)

 202297

            前田朗

 

  96日、国連人権理事会第51会期(本年912日~107日)のために、リチャード・ベネット「アフガニスタンの人権状況に関する特別報告者」の報告書(A/HRC/51/6. 6 September 2022)が提出・受理され、公表された。

報告書は18頁で、目次は次のとおりである。

Ⅰ 序文

Ⅱ 任務のための構想と優先順位

Ⅲ 背景

Ⅳ 国際法枠組みの適用

Ⅴ 人権状況の観察

A 女性と少女の人権状況

B 経済的社会的文化的権利

C 紛争関連人権侵害

D 報復殺害

E 拘禁条件と被収容者の処遇

F 民族的宗教的マイノリティ

G 特別な関心を呼ぶその他の集団

H 基本的自由

 司法運営

 結論と勧告

昨年8月のターリバーン復権後、国連人権機関からいくつもの報告書が出され、本ブログでも紹介した。それらと重複する内容が多いが、ベネット特別報告者は20225月にアフガンを訪問し、調査を行った。アフガンの外でも多くのアフガン人、研究者、NGO、国連スタッフから情報を入手した。Aの「女性と少女の人権状況」を中心に簡潔に紹介する。

ⅤのA 女性と少女の人権状況

1 教育

2 子ども結婚

3 女性に対する暴力

4 勤労と生活の権利

ターリバーン復権後、他の国と違って、女性と少女が公的空間から急速に姿を消し、不利益を被っている。カーブルで面会した女性は次のように言っていた。

「アフガン女性は忍耐強くなければなりません。長年の紛争で苦痛にさいなまれてきました。息子や娘たちの弔いをしてきたのに、自分や娘たちの将来は苦痛と恐怖が待ち構えています。国際社会から忘れられていると感じて、いっそう苦しみが増します。」

アフガン女性は歴史を通じて重大な差別に直面してきた。この20年間、アフガンは女性と少女の人権を実現する重要な前進を見てきた。2004年の憲法や女性に対する暴力撤廃法の制定、女性差別撤廃条約の批准、女性省の設立、国内人権委員会の設置、被害者支援制度である。

事実上の政権であるターリバーンは、女性の権利はシャリーアのもとで保護されるという。しかし、2004年憲法は停止され、女性の法的地位に関する法律も停止状態である。女性のための特別法廷も解散させられた。

少女の中等教育の停止、ヒジャブの義務化、女性の自宅待機、近親男性同伴のない旅行禁止、女性法律家の資格停止、カラフルな衣服の禁止がなされた。女性の行為を理由に男性家族が処罰される。家庭内暴力が増える。女性の移動の自由の制限は健康や教育へのアクセスに影響を及ぼし、暴力状況からの保護を求めることを困難にする。

こうした状況を前に、アフガン女性は非暴力の抗議と抵抗をしている。カーブルで面会した女性は次のように述べた。

「私たちは顔を上げ続けるでしょう。自宅に閉じ込められたままではいません。声が聞き届けられるまで、声を挙げ続けるでしょう。権利と尊厳を求めて闘い続けます。」

1 教育

19962001年、ターリバーン政権時代、少女の学校は閉鎖された。2022321日から少女が学校に通えるようになったが、2日後には中等教育は閉鎖され、イスラム原則に従った制服が求められた。34州のうち24州で中等教育が閉鎖され、85万人の少女が学校を去ることになった。

カーブルで面会した若い女性はフラストレーションを表明した。

「先月は涙でした。毎日将来が暗くなる悪夢だと言い聞かせています。会計の勉強をして、衣服業をやりたかった。外国に行って、学んでからアフガンに戻りたい。日々、私も友人も、夢を奪い取られています。」

 

 

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