2022年5月3日
前田 朗(RAWA連共同代表)
前回まで、2022年3月に国連人権理事会(HRC)第49会期に提出された国連人権高等弁務官(UNHCHR)の報告書『アフガニスタンにおける人権状況、及び人権分野における技術的支援の達成』(A/HRC/49/90. 12 January 2022)を紹介した。
同じ第49会期に国連人権高等弁務官(UNHCHR)のもう一つの報告書『アフガニスタンにおける人権状況』(A/HRC/49/24. 4 March 2022)が提出された。以下、簡潔に紹介する。
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Ⅰ 序論と方法
Ⅱ 経済的社会的文化的権利
A 食料の権利を含む、適切な生活基準の権利
B 教育の権利
Ⅲ 生命と身体の統合の権利
A 文民の保護
B 殺人と司法外殺人
C 拘禁と刑事施設の条件
Ⅳ 女性に対する差別と暴力
Ⅴ 基本的な諸自由
A 意見・表現の自由
B 平穏な集会の権利
C 市民的領域の浸食
Ⅵ 強制立ち退き
Ⅶ 説明責任と司法行政
Ⅷ 結論と勧告
A 結論
B 勧告
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Ⅰ 序論と方法
報告書は、21年8月24日の人権理事会決議に基づくものであり、21年8月24日から22年2月末までを取り上げる。アフガニスタンに拘束力のある7つの条約(社会権規約、自由権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、障害者権利条約)に基づく。
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Ⅱ 経済的社会的文化的権利
タリバーンが復権する以前、アフガニスタンはすでに長期にわたり、武力紛争の文脈で、新型コロナ禍の影響を被っていた。経済状況は深刻を極め、大多数の人々の社会権が影響を受けていた。2015年の国連安保理事会による制裁の影響もある。アフガンの銀行は21年9月までに深刻な経営危機にあり、資金が枯渇していた。21年8月15日、国際社会は人道以外の分野の支援を停止した。21年12月22日、安保理事会決議は制裁の緩和を認め、12月23日、10人の特別報告者が人々の生存にとっての危険を警告した。22年2月2日、アメリカは国際銀行の人道目的の送金を許可し、教師や医療保険関係者への送金が可能になった。
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A 食料の権利を含む、適切な生活基準の権利
世界食糧計画(WFP)によると、適切な食料を入手できない人々が2280万人、37%に及んでいる。870万人はまさに深刻な危機にある。国内農業生産の減少は国際貿易の制限、国境閉鎖により加速し、市場に食品がなく、値段は高騰している。世界銀行によると、22年2月、インフレは41.9%に達し、小麦、米、食用油は高騰している。
その結果、UNICEFによると、子ども労働、子ども結婚、子ども売買(特に女子)が増加している。21年11月、UNICEFが入手した情報では、生後20日の女児が未来の花嫁とされた。
過去20年間、NGOによって保健施設が各地に多数設置されたが、政府の財政は厳しく、一人当たり8ドルに過ぎない。NGOの支援があるものの、長期的運営は難しい。
タリバーン復権以後、多くの支援が停止された。世界銀行は、31州の2300の保健機関を支援するセハトマンディ・プロジェクトから撤退した。資金難により救急医療は運営できず、患者の食料にも事欠き、医薬品もない。
国境閉鎖のため国境外からの医薬品ルートも閉ざされた。電気不足の影響も甚大である。
新型コロナについては、WHOによると、20年1月3日から22年2月24日までに、感染者は172,924名、死者は7,575名である。22年2月19日で、ワクチン接種は5,412,309名で、人口の9%である。
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B 教育の権利
過去20年、教育、特に少女の教育では重要な前進が見られた。21年8月まで、920万の子ども(38%は少女)が就学していた。2000年代の8倍になる。400万の子どもが未就学で、60%が少女である。女性教員が少なく、紛争が続き、教育制度は不備である。教育はかなりがNGOの支援に依拠している。
22年1月12日、事実上の教育大臣によると、40の公立大学が再開するという。2月2日、温暖な地方では男だけでなく女性の大学教育も再開となる。寒冷地の大学は2月26日開始である。女性も教育を受けられるというが、ジェンダー分画教室で、イスラムの衣装を義務化している。タリバーン復権以前から各地でこうした政策が採用されていた。厳格なジェンダー分画は、女性の高等教育へのアクセスの妨げとなる。小中学校でも、女男の平等が確保できる保証はない。
財政難のため、学校教師が基本給を給付されず、いつ支払いを受けるかも不明である。学校運営資金がなく、教材もなく、教育研修もない。少女が通学できるところでも、女性教員がいない。UNICEFによると、女性教員や教育労働者は自宅にとどまり続けている。