2022年5月27日
前田 朗(RAWA連共同代表)
前回に引き続き国連人権高等弁務官(UNHCHR)の報告書『アフガニスタンにおける人権状況』(A/HRC/49/24. 4 March 2022)を簡潔に紹介する。
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Ⅲ 生命と身体の統合の権利
A 文民の保護
タリバーンと政府軍が敵対した最後の数カ月、文民の負担は非常に重かった。21年7月1日から8月15日、UNAMA/OHCHRは423人の民間人死亡、1769人の負傷を記録した。そのうち子どもは77人死亡、女性は27人死亡。3分の2は地上戦のためである。
21年8月15日にタリバーンが政権を掌握して以後、死傷は減ったが、文民保護は重要関心事項である。21年8月15日から22年2月15日、UNAMA/OHCHRは少なくとも397人の死亡、756人の負傷を記録し、子どもは55人死亡、女性は11人死亡である。
文民の死傷の80%はイラクのイスラム国ISILなどによる自殺爆弾攻撃による。21年8月26日のカーブル空港、11月2日のカーブルの病院、シーア派の礼拝を標的とした事件、10月8日のクンドゥズのモスク事件などで264人の死亡、533人の負傷が出ている。
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B 殺人と司法外殺人
21年8月15日以後、タリバーン指導部は前政権官僚や軍人に恩赦を施し保護を保障するとしている。タリバーン最高指導部は恩赦に繰り返し言及しているが、実際には前軍隊、政府要人、その家族の130人以上が殺害された。そのうち100人以上は司法外殺人である。例えば、21年11月4日、バルク州で、7人の部隊が民間住宅に押し入り、女性2人と男性2人を銃殺した。うち3人がアフガン軍職員であった。
21年8月以後、UNAMA/OHCHRはイスラム国ISIL関係者であるとの疑いで50人以上が殺害された。うち35人は司法外殺人である。多くがナンガルハル州である。22年1月には起きなかったが、22年2月、3人が司法外殺人の対象となった。強制失踪、拷問、虐待も数多く報告されている。
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C 拘禁と刑事施設の条件
アフガンの拘禁条件は国際人権水準以下であり、COVID-19のために一部釈放されたものの、過剰収容が続いている。21年8月以後、財政難のため食料、医療、衣服、健康衛生が不十分である。司法制度が機能していないため長期の未決拘禁が続いている。
22年1月、当局は被拘禁者をイスラム法に従って処遇するとのガイダンスを出した。22年1月4日、事実上の内閣がハイレベル委員会を設置し、刑事施設と拘禁施設を査察し、無実の非拘禁者の釈放を審査するとした。その後、各地で少数ながら釈放された。
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Ⅳ 女性に対する差別と暴力
21年8月15日以前にもジェンダー平等、差別、ジェンダー暴力が深刻な状況であった。とはいえ政府の3部門、行政、司法、立法における女性の役割は増加していた。議会では下院は27%、上院の22%が女性であった。公務員の5人に1人は女性である。メディアでは1700人以上の女性が活躍している。人権分野でも女性が活躍している。
21年8月15日以来、政治生活などの職場から女性が排除されている。事実上の内閣の女性はいない。公務員の女性も限られている。21年9月18日、当局は女性省を廃止した。2001年にジェンダー平等を促進するために設置された省庁である。
当局はイスラム法の枠内で女性の権利を支持するとのコメントを発している。21年8月17日、記者会見で、タリバーンのスポークスマンであるザビフラー・ムジャヒドは「イスラムの枠内で」と述べた。9月2日の国連への手紙で、宗教や文化に照らして女性の権利にコメントした。12月3日、当局は結婚と所有権に関する女性の権利について命令を発した。
22年1月17日、国連の人権専門家グループは、女性に対する大規模な差別と暴力に重大な関心を表明した。
当局は女性の移動の自由に制限を課している。21年12月26日、男性の付き添いマフラムなしに女性が国内で移動できる範囲についてガイダンスを出した。タクシー運転手にヒジャブをしていない女性を乗客にすることを禁止している。州レベル、例えばバルク州では、公衆浴場へ行くことを禁止されている。近親のマフラムと一緒でなかったために女性が拘禁された州もある。
22年2月27日、スポークスマンであるザビフラー・ムジャヒドは女性が理由なく国から出ることを禁止した。女性はマフラムなしに航空機・国際便に乗ることもできない。3月2日、ムジャヒドはアフガンは旅行を禁止していないと述べている。女性の海外渡航の自由には言及していない。
ジェンダー暴力から女性を保護するシェルター等が閉鎖され、危機にある女性を援助・保護する制度にギャップができている。多くのシェルターが報復の恐れ、脅迫、財政難のため閉鎖となり、女性たちが暴力被害を受ける環境に戻らざるを得なくなっている。女性の経済的安全や自立は、労働権や移動の自由の制約のため困難となっている。女性省の廃止に加え、女性に対する暴力の廃止を担当する特別裁判所も廃止される。