2022年5月28日土曜日

拾い読みアフガニスタン (第5回)

5月28日

前田 朗

 

22519日、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は、アフガニスタンの独立人権委員会の解散について談話を発表した。

https://www.ohchr.org/en/press-releases/2022/05/comment-michelle-bachelet-un-high-commissioner-human-rights-dissolution

タリバーンが、アフガニスタンの独立人権委員会を解散する決定をしたとの報道に落胆している。

アフガニスタン独立人権委員会は長年にわたって極度に困難な条件の下でたぐいまれな仕事をこなし、紛争両当事者のすべての被害者を含むすべてのアフガン人の人権に照明を当てた。しかし、アフガニスタン独立人権委員会は20218月以来、その地で活動することができなくなっていた。

アフガニスタン独立人権委員会は人権を求める力強い声であり、国連人権機関の信頼できるパートナーである。アフガニスタン独立人権委員会が喪われることは、すべてのアフガン人とアフガン市民社会にとって深刻な逆行となるだろう。

私は本年3月にカーブルを訪問し、事実上の政府当局と、公衆からの不服申立てを受理し、事実上の当局の注意を喚起することのできる独立人権機関を再設置することの重要性を議論したばかりである。

拾い読みアフガニスタン(第4回)

 2022年5月27

前田 朗(RAWA連共同代表)

 

前回に引き続き国連人権高等弁務官(UNHCHR)の報告書『アフガニスタンにおける人権状況』(A/HRC/49/24. 4 March 2022)を簡潔に紹介する。

Ⅲ 生命と身体の統合の権利

A 文民の保護

タリバーンと政府軍が敵対した最後の数カ月、文民の負担は非常に重かった。2171日から815日、UNAMAOHCHR423人の民間人死亡、1769人の負傷を記録した。そのうち子どもは77人死亡、女性は27人死亡。3分の2は地上戦のためである。

21815日にタリバーンが政権を掌握して以後、死傷は減ったが、文民保護は重要関心事項である。21815日から22215日、UNAMAOHCHRは少なくとも397人の死亡、756人の負傷を記録し、子どもは55人死亡、女性は11人死亡である。

文民の死傷の80%はイラクのイスラム国ISILなどによる自殺爆弾攻撃による。21826日のカーブル空港、11月2日のカーブルの病院、シーア派の礼拝を標的とした事件、108日のクンドズのモスク事件などで264人の死亡、533人の負傷が出ている。

B 殺人と司法外殺人

21815日以後、タリバーン指導部は前政権官僚や軍人に恩赦を施し保護を保障するとしている。タリバーン最高指導部は恩赦に繰り返し言及しているが、実際には前軍隊、政府要人、その家族の130人以上が殺害された。そのうち100人以上は司法外殺人である。例えば、2111月4日、バルク州で、7人の部隊が民間住宅に押し入り、女性2人と男性2人を銃殺した。うち3人がアフガン軍職員であった。

218月以後、UNAMAOHCHRはイスラム国ISIL関係者であるとの疑いで50人以上が殺害された。うち35人は司法外殺人である。多くがナンガルハル州である。221月には起きなかったが、222月、3人が司法外殺人の対象となった。強制失踪、拷問、虐待も数多く報告されている。

C 拘禁と刑事施設の条件

アフガンの拘禁条件は国際人権水準以下であり、COVID-19のために一部釈放されたものの、過剰収容が続いている。218月以後、財政難のため食料、医療、衣服、健康衛生が不十分である。司法制度が機能していないため長期の未決拘禁が続いている。

221月、当局は被拘禁者をイスラム法に従って処遇するとのガイダンスを出した。22年1月4日、事実上の内閣がハイレベル委員会を設置し、刑事施設と拘禁施設を査察し、無実の非拘禁者の釈放を審査するとした。その後、各地で少数ながら釈放された。

Ⅳ 女性に対する差別と暴力

21815日以前にもジェンダー平等、差別、ジェンダー暴力が深刻な状況であった。とはいえ政府の3部門、行政、司法、立法における女性の役割は増加していた。議会では下院は27%、上院の22%が女性であった。公務員の5人に1人は女性である。メディアでは1700人以上の女性が活躍している。人権分野でも女性が活躍している。

21815日以来、政治生活などの職場から女性が排除されている。事実上の内閣の女性はいない。公務員の女性も限られている。21918日、当局は女性省を廃止した。2001年にジェンダー平等を促進するために設置された省庁である。

当局はイスラム法の枠内で女性の権利を支持するとのコメントを発している。21817日、記者会見で、タリバーンのスポークスマンであるザビフラー・ムジャヒドは「イスラムの枠内で」と述べた。92日の国連への手紙で、宗教や文化に照らして女性の権利にコメントした。123日、当局は結婚と所有権に関する女性の権利について命令を発した。

22117日、国連の人権専門家グループは、女性に対する大規模な差別と暴力に重大な関心を表明した。

当局は女性の移動の自由に制限を課している。211226日、男性の付き添いマフラムなしに女性が国内で移動できる範囲についてガイダンスを出した。タクシー運転手にヒジャブをしていない女性を乗客にすることを禁止している。州レベル、例えばバルク州では、公衆浴場へ行くことを禁止されている。近親のマフラムと一緒でなかったために女性が拘禁された州もある。

22227日、スポークスマンであるザビフラー・ムジャヒドは女性が理由なく国から出ることを禁止した。女性はマフラムなしに航空機・国際便に乗ることもできない。32日、ムジャヒドはアフガンは旅行を禁止していないと述べている。女性の海外渡航の自由には言及していない。

ジェンダー暴力から女性を保護するシェルター等が閉鎖され、危機にある女性を援助・保護する制度にギャップができている。多くのシェルターが報復の恐れ、脅迫、財政難のため閉鎖となり、女性たちが暴力被害を受ける環境に戻らざるを得なくなっている。女性の経済的安全や自立は、労働権や移動の自由の制約のため困難となっている。女性省の廃止に加え、女性に対する暴力の廃止を担当する特別裁判所も廃止される。

 

2022年5月13日金曜日

拾い読みアフガニスタン(第3回)

 2022年5月3日

前田 朗(RAWA連共同代表)

 

前回まで、20223月に国連人権理事会(HRC)第49会期に提出された国連人権高等弁務官(UNHCHR)の報告書『アフガニスタンにおける人権状況、及び人権分野における技術的支援の達成』(A/HRC/49/90. 12 January 2022)を紹介した。

同じ第49会期に国連人権高等弁務官(UNHCHR)のもう一つの報告書『アフガニスタンにおける人権状況』(A/HRC/49/24. 4 March 2022)が提出された。以下、簡潔に紹介する。

 序論と方法

 経済的社会的文化的権利

A 食料の権利を含む、適切な生活基準の権利

B 教育の権利

 生命と身体の統合の権利

A 文民の保護

B 殺人と司法外殺人

C 拘禁と刑事施設の条件

 女性に対する差別と暴力

 基本的な諸自由

A 意見・表現の自由

B 平穏な集会の権利

C 市民的領域の浸食

 強制立ち退き

 説明責任と司法行政

 結論と勧告

A 結論

B 勧告

Ⅰ 序論と方法

報告書は、21824日の人権理事会決議に基づくものであり、21824日から222月末までを取り上げる。アフガニスタンに拘束力のある7つの条約(社会権規約、自由権規約、人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、拷問等禁止条約、子どもの権利条約、障害者権利条約)に基づく。

Ⅱ 経済的社会的文化的権利

タリバーンが復権する以前、アフガニスタンはすでに長期にわたり、武力紛争の文脈で、新型コロナ禍の影響を被っていた。経済状況は深刻を極め、大多数の人々の社会権が影響を受けていた。2015年の国連安保理事会による制裁の影響もある。アフガンの銀行は219月までに深刻な経営危機にあり、資金が枯渇していた。21815日、国際社会は人道以外の分野の支援を停止した。211222日、安保理事会決議は制裁の緩和を認め、1223日、10人の特別報告者が人々の生存にとっての危険を警告した。2222日、アメリカは国際銀行の人道目的の送金を許可し、教師や医療保険関係者への送金が可能になった。

A 食料の権利を含む、適切な生活基準の権利

世界食糧計画(WFP)によると、適切な食料を入手できない人々が2280万人、37%に及んでいる。870万人はまさに深刻な危機にある。国内農業生産の減少は国際貿易の制限、国境閉鎖により加速し、市場に食品がなく、値段は高騰している。世界銀行によると、222月、インフレは41.9%に達し、小麦、米、食用油は高騰している。

その結果、UNICEFによると、子ども労働、子ども結婚、子ども売買(特に女子)が増加している。2111月、UNICEFが入手した情報では、生後20日の女児が未来の花嫁とされた。

過去20年間、NGOによって保健施設が各地に多数設置されたが、政府の財政は厳しく、一人当たり8ドルに過ぎない。NGOの支援があるものの、長期的運営は難しい。

タリバーン復権以後、多くの支援が停止された。世界銀行は、31州の2300の保健機関を支援するセハトマンディ・プロジェクトから撤退した。資金難により救急医療は運営できず、患者の食料にも事欠き、医薬品もない。

国境閉鎖のため国境外からの医薬品ルートも閉ざされた。電気不足の影響も甚大である。

新型コロナについては、WHOによると、20年1月3日から22224日までに、感染者は172,924名、死者は7,575名である。22219日で、ワクチン接種は5,412,309名で、人口の9%である。

B 教育の権利

過去20年、教育、特に少女の教育では重要な前進が見られた。218月まで、920万の子ども(38%は少女)が就学していた。2000年代の8倍になる。400万の子どもが未就学で、60%が少女である。女性教員が少なく、紛争が続き、教育制度は不備である。教育はかなりがNGOの支援に依拠している。

22112日、事実上の教育大臣によると、40の公立大学が再開するという。22日、温暖な地方では男だけでなく女性の大学教育も再開となる。寒冷地の大学は226日開始である。女性も教育を受けられるというが、ジェンダー分画教室で、イスラムの衣装を義務化している。タリバーン復権以前から各地でこうした政策が採用されていた。厳格なジェンダー分画は、女性の高等教育へのアクセスの妨げとなる。小中学校でも、女男の平等が確保できる保証はない。

財政難のため、学校教師が基本給を給付されず、いつ支払いを受けるかも不明である。学校運営資金がなく、教材もなく、教育研修もない。少女が通学できるところでも、女性教員がいない。UNICEFによると、女性教員や教育労働者は自宅にとどまり続けている。

2022年5月1日日曜日

5月22日 清末愛砂講演会 (大阪ドーンセンター)

 

 *チラシをクリックすると拡大できます。

<ドーンセンター(大阪府立男女共同参画・青少年センター)の地図は下記をクリック>

アクセス|大阪府立男女共同参画・青少年センター(ドーンセンター):: DawnCenter

540-0008 大阪市中央区大手前1丁目349号 ドーンセンター

 

『パレスチナ 今 私たちができること』のお知らせ

チラシPDF版  ←ダウンロードできます 『パレスチナ 今 私たちができること』   日時:11月24日(日) 14時~ (受付13:30~) 場所:エルおおさか                     アクセス | エル・おおさか 内容 ■映画『ガーダ パレスチナの詩』(古居み...