2022年4月2日
前田 朗(RAWA連共同代表)
今回から時々、アフガニスタンの人権状況に関連する報告書等を紹介する。行き当たりばったりで、おまけに拾い読み程度の紹介になる。正確に翻訳するのは時間と手間がかかりすぎる。系統的に資料を紹介するのもなかなか大変だ。きまぐれで、不定期で、とお断りしておかないと、始めるのが難しい。この点はご容赦願いたい。
*
2022年3月にジュネーヴの国連欧州本部で開催された国連人権理事会(HRC)第49会期に、国連人権高等弁務官(UNHCHR)の報告書『アフガニスタンにおける人権状況、及び人権分野における技術的支援の達成』(A/HRC/49/90. 12 January 2022)が提出された。これまでも同事務所OHCHRはアフガニスタンについて年次報告書を提出・公表してきた。
今回の報告は2020年12月1日から2021年11月30日の国連アフガニスタン支援団(UNAMA)人権局と活動を中心に扱っている。話題は5つの活動分野である。
① 武力紛争における民間人の保護
② 子どもと武力紛争
③ 女性に対する暴力撤廃と女性の権利の促進
④ 拷問防止と手続き的安全策の尊重促進
⑤ 市民領域と、和平・和解過程への人権の統合
報告書が扱うのは2021年8月15日以前の活動が中心だが、アフガニスタン情勢は8月15日に激変したので、報告書は変動を念頭に置いて読まれるべく執筆されている。
*
目次
Ⅰ 序文
Ⅱ 文脈
Ⅲ 民間人の保護
Ⅳ 子どもと武力紛争
Ⅴ 拷問防止と手続き的安全策の尊重促進
Ⅵ 死刑
Ⅷ 市民領域――ジャーナリスト、メディア労働者、市民社会活動家の安全
Ⅸ 和平と和解――責任と移行期の正義
Ⅹ 国連人権メカニズムとの協力
Ⅺ 結論
Ⅻ 勧告
*
以下では「Ⅶ 女性に対する暴力撤廃と女性の権利の促進」をざっと紹介する。
A 女性の権利
2021年8月以前、政府はジェンダー平等を促進する戦略を履行しつつあった。8月12日、大統領令2021年55号は、女性高等委員会を設置して、女性の権利――特に経済的社会的文化的権利、アフガニスタンの社会経済発展全体の法的保護、安全保障と政治領域について、政府の活動を概観し、指導することにした。
女性への非差別の前進をめざす法改革は進展しつつあった。2020年12月5日、内閣立法委員会はいわゆる「処女検査」を禁止し、検察庁、アフガニスタン独立人権委員会、アフガニスタン女性ネットワークに、刑法典第640条改正案を起草するよう要請した。2021年5月25日、女性問題省は2009年の女性に対する暴力撤廃法の見直しを行い、女性に対する暴力の犯罪の数を22から29に増やした。6月中旬、家族法改正案が前司法大臣によって作成され、8月と9月に最終見直しの予定だった。
2020年12月31日、女性問題省は、UNAMAとOHCHRの協力で、女性に対する暴力撤廃国際デーを記念して、検察庁及び独立行政改革委員会との間で協定を取り結び、職場におけるハラスメントと闘い、行政サービスへの女性参加を増加させるための合同委員会を発足させることにした。7月14日、女性問題省とテレコミュニケーション省は、5人の法律家によるホットラインを発進させ、暴力被害を受けた女性と少女の申立てを受け付け、相談に応じることにした。
国際女性デーに当たって、2021年3月4日に出された大統領令は、2年半までの刑事施設収容判決を言い渡された女性被拘禁者の早期釈放を命じた。3月7日、女性問題省はカーブルで女性デーのイベントを開催した。UNAMAとOHCHRは地方の州で7つのイベントを支援し、358人の女性が参加した。
8月15日、タリバーン復権以後、女性の権利に関する啓発活動、ワークショップ、ラジオ番組はすべて中断している。女性の権利活動家は生命の危険を感じ、多くが国外に逃れ、アフガニスタンで身を隠している。タリバーン政権の政策は、女性の働く権利、教育の権利、移動の自由、平和的集会の自由を制限し、20年にわたって前進してきたジェンダー平等と非差別に直接反対している。